枕飾りと末期の水とは
枕飾りとは、故人が眠る棺の枕元に置く祭壇の事を指し仮祭壇とも言われます。祭壇といってもお通夜や葬儀の際に設置する祭壇とは異なり小さい規模で飾られる事が多いです。枕飾りは後飾りと混同されがちですが、設置するタイミングが違いますのでまた別物です。末期の水とは、臨終に立ち会った人たちが故人の口に水を含ませる儀式のことを指し、故人に対して行われる最初の儀式となります。
今回の記事では、枕飾りと末期の水について詳しくお伝え致します。
枕飾りとは
日本では仏式の葬儀が多く見られるので、ここでは仏教における枕飾りの内容を特に詳しく説明していきます。お墓や仏壇とは異なり自由に供え物を決るのではなく、線香や水といった様に供え物の内容が決まっています。仏教の枕飾りに必要な物は基本的には、白木台または白色の布を掛けた台・一膳飯・枕団子・水・香炉・線香・燭台・花瓶・しきみや菊・鈴が供えられます。宗派による大きな違いはありません。枕飾りの台は一膳飯や花瓶を配置する為に土台となる物を使用しますが本来であれば白木台が好ましいとされています。ですが白い布が掛けた台でも問題ありません。大きさは半畳から一畳位を目安に適度な大きさの台を設置します。白色の外観が重要となりますから、白木台の上から布をかぶせる場合もあります。一膳飯・枕団子・水は先に述べたように故人が食欲から浄化されるようにという願いを込め供えます。飲料水ではなくても水道水などでも問題ありません。一膳飯は山形になるよう盛り中央にお箸を立てます。一膳飯のお米は無洗で炊くのが本来のマナーでしたが近年では通常通り炊飯器から盛り付けるケースも多く見られるようになってきています。枕団子は地域によって6個~11個と異なるので分からない場合には良く知っている方に相談して数を決めると良いでしょう。香炉・線香・燭台は、枕飾りの設置後に線香を焚くので香炉や燭台を用意します。線香は香炉の横に並べ整えておきましょう。火を付けた線香は香炉の中央に1本のみ立てます。ろうそくを立てる燭台は基本的には白色の物を用います。花瓶・しきみや菊の花瓶の色に厳密な決まりはありませんが、単色無地の物が適切といえます。活用しやすい物を選ぶ場合は白色の花瓶を設置すると良いでしょう。しきみや菊の他、ユリやスイセンといった植物を供えることもありますが宗教によっては避けた方が良い種類もある為事前に確認すると安心です。最後に鈴ですが、故人に手を合わせたり礼拝したりする際には鈴(りん)を鳴らします。仏教において重要な物のひとつで、鈴を鳴らすための鈴棒と一緒に配置します。
仏式の中でも覚えておきたい点として、浄土真宗の枕飾りに対する考え方は他の宗派とは異なり水や枕団子など飲食物の供え物は不要とされているという事です。他の遺族とも相談しその場面に合わせて故人・遺族にとって適したかたちを選びましょう。
仏教以外の枕飾りのついても簡易的にですがご紹介致します。まず、神道の枕飾りの場合には用意するのは八足机(儀式で使う机)、三方(神饌を載せる台)、花瓶です。三方と花瓶を載せ、花瓶には榊、三方の中には水・洗米・塩・お神酒などを供えます。この他にも常饌という普段の食事と同じような供え物をする場合もあり故人の好物なども置かれます。
キリスト教の場合には、本来キリスト教には枕飾りという習慣はありませんが日本では十字架や聖書・白い花・燭台・パン・水などを飾る場合もあります。また、キリスト教の「終油の秘跡」という儀式に合わせ聖油壺が飾られる場合もあります。
意味やタイミング
枕飾りを設置する主な理由は簡易的な祭壇と故人の供養になります。簡易的な祭壇といっても、お通夜や葬儀に参列できない場合には安置場所に足を運んで礼拝を行いますのでその際に枕飾りを本祭壇に見立てるといったように使用します。故人の供養という点においては、枕飾りは故人の食欲や物欲が浄化されるといった考え方もあり、枕飾りに供えた食べ物によって欲から解放されるという意味もありますので遺族だけではなく故人にとって重要な役割を担っています。
枕飾りを行うタイミングはお通夜の前になり、安置場所が決まり搬送された直後から枕飾りが用意されます。遺族の意向によっても異なりますが主な安置場所は自宅や葬儀会社が代表的です。基本的には枕元付近に場所を決めてから設置し、お通夜の準備を始める段階で回収しますので設置期間は通夜の日程によって様々となります。回収する際には開式と同時にではなく故人を移動させるタイミングですが葬儀会社の規定によっては後飾りと枕飾りを交換する様な形で作業を進める場合もあります。
注意点
枕飾りにも宗教上、注意しなければいけない点があり宗教・宗派によってそれぞれタブーやマナーも異なります。ここでは仏教での注意点をご紹介しますので参考にして下さい。まずは枕飾りの上で灯されるろうそくについてです。ろうそくには、故人の魂を導く目的があり火が消えると道に迷うとされている為、納棺の儀式を終えるまで消えない様に注意しましょう。不安な方は10時間以上燃焼する「ブロンマローソク」を活用するのもおすすめです。葬儀においても多様化の進む近年では火が消えても問題ないと考える方も多く見られるようになってきましたし、万が一消えてから気付いた場合でもすぐに着火できれば気に病む必要もないといえます。また、他の霊から故人を守り適切に供養するための配慮として線香の煙もろうそくの火と同様に常に出しておくのがマナーとされています。遺体の保冷が困難な時代には腐敗臭を充満させない目的も含めていたという習わしです。線香とろうそくを同時にチェックする為夜間は遺族が交代で見守るのが一般的ですが線香の形状にこだわらないのであれば、10時間以上燃焼し続ける線香の活用もおすすめです。枕飾りに供える一膳飯は、茶碗にご飯を高く盛った状態で置きます。高く盛る理由として、故人が生きていた環境を振り返った際に盛られたご飯に遮られるように。つまり、生前を振り返って未練を残さないようにと願いを込めた盛り方です。お通夜まで数日間供える場合は、毎日炊き立てのご飯を用意すると良いでしょう。厳密なルールではありませんが、可能であれば定期的に交換するのが適切といえます。納棺の際には、前日から当日に供えていた一膳飯も納めましょう。
末期の水とは
末期の水は、仏教における大事な葬送の儀式です。その由来のひとつに仏教の経典に記されている「お釈迦様の入滅に関する故事にちなむ」という説があります。お釈迦様の入滅に関する故事というのは、お釈迦様は亡くなる直前に弟子に喉が渇いたので水をとってきて欲しいと頼みますが河の水が濁っていた為に弟子はお釈迦様に我慢して下さいと伝え、その際に雪山に住む仏道に篤い鬼神が現われ鉢にくんだ浄水を捧げました。お釈迦様はその水を飲み安らかに旅立つことができました。この事から、お釈迦様と同じように安らかに旅立って欲しいという願いを込め亡くなった方の口に水を含ませるという儀式が生まれたとされています。この他にも、故人に生き返って欲しいという願いを込めて行ったという説や、神道で死者の穢れを清めるために行ったという説もあります。いずれにしても、長い歴史の中で日本人の生活に深く根付いた儀式であるといえるでしょう。(※浄土真宗ではあの世では苦しみがないとする為、末期の水を行うことはありません※)
タイミングや場所・準備
末期の水を行うタイミングについてですが元来、末期の水は臨終の直前に行うものとされていました。これには先にもお伝えした通り、のどを潤すことで苦しみを軽くして安らかに旅立って欲しいという、見送る側の気持ちが込められています。更に、医学の発展が未熟な時代には喉ぼとけの音や動き、水がのどを通っているかどうかを見て生死を判断していた可能性もあるようです。しかし医学が発達した現在では、医師から臨終を告げられた後に行われるようになっています。病院では医療スタッフの方で末期の水を誘導してくれることが一般的です。末期の水を行う場所や準備についてですが、医師から臨終の宣告を受けたらその場で末期の水の儀式に移ります。流れとしては、末期の水・清拭・湯灌・死化粧という順番です。病院の場合は医療スタッフの指示に従い進行をお任せしましょう。病院によってはケア担当の専門スタッフがいる場合もあります。自宅で亡くなった場合や病院から自宅に移して儀式を行う場合は、葬儀社や訪問看護師の力も借りて行うことになります。末期の水は可能な限り多くの近親者で行う方が望ましいとされているので、臨終の場に間に合わなかったご家族がいた場合には全員が揃うのを待つケースもあります。
手順や注意点について
ここからは末期の水の手順についてお伝え致していきます。※厳密には宗旨宗派や地域によって差もありますのでその都度確認するようにして下さい。
まずは箸を用意しその先に脱脂綿(地方によっては脱脂綿ではなく鳥の羽・菊の葉を使う場合もある)を巻き白い糸で縛りつけて固定します。また、箸ではなく新しい筆をおろして使う場合もあります。次に、お椀に水をくんで、そこに先ほどの脱脂綿などを付けて湿らせ、準備ができたら故人との血縁などの関係性が深い順に故人の口に当てていきます。この際の順番としては、まずは配偶者が行い、それから子ども・親・兄弟姉妹・子どもの配偶者・孫・従兄弟・従姉妹や叔父叔母などその他の親族という序列になるのが一般的です。ただし小さな子どもまで無理に末期の水をさせる必要はありません。また病院や葬儀社のスタッフからのアドバイスがあればそちらに従うようにしましょう。
口への当て方については、まず上唇の左から右になぞるように動かし次に下唇の左から右に、同じように当てていきます。水を含ませるという儀式だといっても、無理やり口の中に入れたりするのはマナーに反しますので、唇の表面を軽く濡らすだけで十分です。その場にいる全員がやり終えたら故人の顔をきれいに拭いて終了します。顔の拭き方は、まずはおでこからきれいにしてあげましょう。唇を濡らしたときと同じように、左から右へと優しく拭いていきます。次に鼻の部分を上から下に拭きおろし、最後に顎のまわりを左から右に拭いていきます。そして顔を拭きながら「お疲れ様でした」など、故人に気持ちを込めて声をかけてあげましょう。